「Fantôme」宇多田ヒカルを聴いて、後編です。発熱したまま、書く。どの曲もすごいけど、好きな曲三曲あります。あれ?一曲増えてる。笑。
6.ともだち
リズムの魅力と快感。ハンドクラッピング、ギターの楽しさ。ラッパの彩り。R&Bなんだけど軽くてお洒落でラテンの香りをまとっていて、そのくせ歌詞はすごく切ない。
ともだちの垣根を越えられない人、越えちゃったけど越えるまでの葛藤を覚えている人には激しくこたえると思う。
なんなんだろうこれ。掴まれる。癖になる。コーラスもたまらない。気持ちいい。踊りたくなる。
好きな曲一曲目。
7.真夏の通り雨
これは…バラードになるのかな。このアルバムの中で一番地味な曲だと思うんだけど、沁みます。わたしはこれ好きだなぁ。ピアノと歌詞が、すごくぐっとくる。風景がありありと目の前に広がる。気持ちが同調する。好きな曲二曲目。静かに噛み締めて聴いている。
8.荒野の狼
これはレトロでファンキーでクールな曲。途中からなんかボカロ曲っぽくもなる。全然違うけど、マイケルジャクソンとビジュアル系とかも連想してしまう。面白い。「無いものは無い」
9.忘却
一番好きな曲。出だし、シンセでストリングスでピアノで不揃いな不穏な心臓の鼓動のよう。どくん…どくん…と胸をたたく。
hi-posiというバンドに「あと何日」という名曲があるんだけれど、ふとそれを思い出した。似てないのに。ちなみにその曲はわたしにとって切ない曲ベスト3にはいる。
この「忘却」も、ものすごく切ない曲。胸をかきむしりたくなる。
前面に出ているのがKohhの素晴らしいラップミュージックなんだけど、追い掛けて被さってくる宇多田ヒカルの掠れたハイトーンの透明な声にぞっとする。
美しい。
あまりにもうつくしく歌詞の生々しさが輝く。汚れや負や死が放つ光。安らぎ。
魂にナイフを差し込んでくる曲。2人の類稀なる歌い手が、交互にひりひりする歌詞を歌う時、知らない間に涙が頰をつたっていることに、気づく。
初めて聴いた時の衝撃が失われないまま、無限にリピートしてしまう魔力を持っている曲。強い引力と快感にただ身を任せるだけ。たまらなく好き。
10.人生最高の日
9.をネガとするならこの曲はポジだ。80〜90年代の洋楽ポップスのような明るいラブソング。それなのにどこかからっぽで、楽しいのに不安になる。やっぱり9.の世界とつながっている。日本語のことわざや四字熟語で語呂合わせの言葉遊びが楽しい。シェイクスピア、ってよく浮かんだなぁ。やっぱり天才なんだな、宇多田ヒカルって。
11.桜流し
素直に、美しい曲。ピアノと声がよく馴染んでいる。盛り上がろうとする過剰さをできるだけ排除して、高まりを制御する。だからこそ伝わってくる思い、世界。
アルバムの締めくくりにふさわしい一曲。
ピアノの蓋を静かに締めて、歌姫はまた、人生と音楽の旅に出るのでしょう。
アルバム全体を通じて、生と死、光と影、体温、性を感じました。それは生々しいのにいやらしくなくて、すうっと胸に入ってくるものでした。なんて自然で、等身大なのか。宇多田ヒカル自身が身を削り通り抜けてきたことを、消化して、昇華して、言葉と音楽でできた歌という形の花にして届けてくれた。そんな気がします。
繰り返しますが、このアルバムを聴いてよかったです。一冊の本を読み終えた時のような、深い感動に包まれて今夜は眠ろうと思います。